「あれっ! これって長沼君?」
「えっ、何?」
美紀が少し驚いた顔でi phoneの画面を見せてきた。
「これ、これ。 このFacebookの『長沼秀典』って。」
「そうそう。 最近始めたの。」
「えっ! 何で? こういうの嫌いじゃん!」
「こういうのって、どういうの?」
「ほらっ、ネット上での表面的な人との付き合いとか嫌いじゃん。」
「別に嫌いじゃないよ。 苦手なだけだよ。」
「同じ事じゃん! どう違うの?」
「う〜ん。 興味はあるけど、ただ面倒くさいって事。 だから嫌いではないの。」
「ふ〜ん。」
「ほらっ、今年でVELTPUNCHが15周年じゃん。だから今までお世話になったけど最近全然連絡できなくなっちゃった人とかいっぱいいるから、そういう人達と改めて連絡出来るようになったら、ちゃんとお礼が言いたいなと思って。」
「へぇ。 良 いじゃん! 続けてみなよ。」
俺は嘘をついた。
いやっ、「嘘」と断言すると、それも嘘になってしまうかもしれないが...。
正確に言うと美紀に言った事は本心の2%くらいの割合で、あとの98%は昔好きだった女の子から、「わーわー! 長沼君見っけ♡ 超お久しぶりです。 私の事憶えてる? 大学時代に同じクラスだった○○です。 実は私、普通にVELTPUNCHのファンでCD聴いてたんだけど、なんか見覚えのある顔だなって思ったら昔好きだった(あっ!言っちゃった!)長沼君がやってるバンドだって気付いて超ビックリしたよ! 良かったら今度飲みに行こうよ!」的な連絡が来る事があるとか無いとかっていう噂を聞いたので、それを期待しているだけの事だ。
「それにさ、今までの人間関係の再構築だけじ ゃなくって、Facebookを通じて新たにバンドマンや音楽関係者や多くのリスナーと直接コンタクトが取れれば、自分達が作ってきた音楽をより多くの人に聴いてもらえる新たなきっかけになるかもしれないじゃん。 多くの情報が錯綜している現代で『はい、CD出しました。あとは聴きたい人が見つけて下さい。』じゃ、あまりにも無策だと思うんだよ。」
「うんうん。」
「だから、これからはFacebookに代表されるようなソーシャルネットワークとを駆使して、自分達の活動をどんどん世界に発信していきたいんだ!」
「凄いじゃん!」
美紀が目をキラっキラさせてこっちを見ているが、当然のことながらこれも2%の本心の一部分の話だ。「いつもVELTPUNCHの音楽に勇気づけられています。 ショーの前とか緊 張して自分に負けそうな時は『CRAWL』を聴いて、よし!長沼さんが近くにいるから頑張れるっ!って勝手に思っています。 あっ、言い忘れましたがCanCanって雑誌でモデルやっている○○って言います。 今度ライブに行った時にご挨拶させて下さい!」的なフレンドリクエストが来るとか来ないとかっていう噂を真に受けてしまっただけの事だ。
「そしたらツイッターも始めてみたら?」
「ツイッターはやらない。 なんか『つぶやき』っていうコンセプトが無責任に感じちゃうんだよね。」
「どういう事?」
「だって、『今日行ったレストランが不味かった!』って書いても、これは個人的なつぶやきだからって理屈で営業妨害ではないでしょ。 つまり『つぶやき』っていう便利なキーワードの おかげで、どんなに退屈でつまらない事や、ゲスい悪口を書いててもOKっていう世界じゃん。 叫んでいません!つぶやいただけです!ってね。」
「確かに友達の見てても下らないつぶやきは多いよね!」
「俺はつぶやくんじゃなくて、世界に叫びたいね!」
「さすがにアーティストは違うね。」
また嘘をついた。
実は以前に「でたらめチューニング」という名前で1日に1回、最低の下ネタ川柳をつぶやくというツイッターを始めたが、毎度携帯での投稿をしていたら予測変換の大半が下ネタオンパレードになり、これは生活に支障をきたすと思いすぐに辞めたのだった。
....美紀は俺を良く分かっていない。
別に彼女の前で背伸びをしているつもりはないのだが、彼女は勝手に俺の事を見上げている。「ア ーティスト」だなんて言われると居心地が悪くて気持ち悪くなってしまうが、そのおかげでこんなに可愛い女性が俺なんかの事を好きになってくれたのかと思うと、どうしても彼女の幻想に乗っかってしまう自分がいる。
まぁいい。どうせすぐに化けの皮が剥がれて幻滅されるだけの事だ。男女の恋愛など表面のメッキが剥がれて相手の嫌いな所が分かってきて「はいスタート!」って始まるものかもしれない。
「ねぇ、俺のどこが好きなの?」
「えっ? 急に聞かれても...。 逆に長沼君は私のどこが好きなの?」
しばらく考えたが何も浮かばなかった。俺は別に美紀の事を愛してはいない。
空腹で苦しんでいる目の前に吉野家の牛丼が置いてあったら当然食べる。「いやっ、俺は松屋の牛飯が好きだ から結構です!」と断る人はいないだろう。おそらく美紀の見た目は叙々苑クラスだ。俺がホモじゃないかぎり断る理由は特になかった....それだけの事だ。
「なんだろう、やさしいところかな。」
「ありがとう。 でも、私全然やさしくないよ。」
「えっ、やさしいよ!」
「やさしくないよ。前の彼氏と別れる時とか半殺しにして『鬼ーっ!』って言われてバイバイしたからね。」
「何でそんな事を?」
「なんか、浮気願望が強い人で、結局浮気はしてなかったんだけど、元から私の事好きじゃなかったとか言われて、そんでキレちゃったの...私。」
マンガなどで見る「ギクっ!」の意味が初めて分かった。
俺はあからさまにギクっ!っとしてしまった。彼女はカポエラの道場に3年通い続けているスポーツ万能なタイプの女性だ。
「長沼君も気を付けてね。私もう、彼氏が土下座する姿とか見たくないんだ。」
「は......はい 。」
.......やはり叙々苑は安くなかった。
VELTPUNCHの7枚目のアルバムのレコーディング前に仕事中の転倒で右手を骨折し、スケジュールをすべて飛ばしてしまった事があったが、こんどまた「アルバム発売延期」的な話があった時は是非理由には触れないでいただきたい。
ベルトアルバムの楽曲投票ももうすぐ締めきりです!
是非みなさん投票して下さい!
何か良い物が当たるかも。
http://www.veltpunch.net/questionnaire.html
■今日のBGM141■
「Get Away」Yuck♪