“Pug's smile” after the SEX.........
24時を過ぎた事に気づいたタカシが、慌てて「明けましておめでとう!」のコールをした。カウントダウンも無しにいきなり盛り上がられても、俺は急にテンションを上げられなかった。少し温くなったシャンディーガフを軽く持ち上げて「明け〜。」とだけ言って、視線は付けっぱなしのTVから垂れ流される「絶対に笑ってはいけない」の方を向いたままだった。
「初詣行こっか!」サキが言った。
面倒くさいな..クソ寒いのに....。
「ごめん。俺パス!」
「馬鹿っ!そしたらみんなで“長沼にバチが当たりますように!”ってお祈りするよ!」
「いいよ別に。俺、そういうの信じないし。」
「ほらほら、寒み〜事言うなよ!みんなで行くから良いんだよ。こういうのは!」
カズは無理矢理俺の手を引っ張って、俺が腰を上げたタイミングで手を離した。
「痛っ!バカっ!」
「あははははっ!」
一瞬本気で殴り返してやろうかと思ったが、ヨシミが大爆笑していたので、俺も釣られて笑ってしまった。
ヨシミが笑うと顔がパグ犬みたいにクシャっとなる。それが本当に可愛くて、あの笑顔を自分だけの物に出来たらどんなに幸せなんだろうと思った。あぁ、カズが憎い。そして俺と相思相愛だったはずなのに、カズに押し切られる流れでカズと付き合い、俺との仲は何も無かったかのように振る舞えているヨシミが憎い。
...こういう時はSEXの後に、あのクシャクシャの笑顔で恥ずかしそうに「ねぇ、気持ち良かった?」と聞いてくるヨシミを妄想して、なんとなくカズに「ザマ見ろ!」と思う事にしている。中2レベルの最低の仕返しだ。
「ほら、早く行こう。」ヨシミが言った。
「はぁい。」
暖房+コタツ+加湿器+空気清浄機で作られた「人工的熱帯気候」にすっかり馴染んだ体で外に出ると、そこは正に「寒中地獄」だった。遠くの方で鐘の音が聞こえた。
大人になるにつれ「年越し」とか、そういうベタな行事に対しての「実感」がどんどん薄れていく。子供の頃はあんなにドキドキしたのに。「誕生日」も「クリスマス」も「バレンタイン」も30回以上経験してしまうと、「所詮こんな程度の楽しさ」という事が分かってしまうのだ。特に「年越し」なんて、それ以上でも以下でもない、ただの「年越し」でしかない。「みんなで年越ししよう」って集まった会なのに、俺はこの時聞いた鐘の音で「あぁ、今日は年越しか...。」なんて馬鹿みたいな感想を漏らしてしまった。
「寒み〜。寒み〜よ〜。」
「確かに。このままじゃ死ぬぅ。タカシの家に戻ろうょ。」
「っつーか、お前ら、なんでそんな薄着なの?」
「あははは。」
「ねぇ、どこ、神社?」
「あと、15分は歩くよ。」
「マジかよ!タクシー通んないかな....。」
酔っ払いの集団だからしょうがない話だが、さっきから「寒い」というだけで5分近く盛り上がり続けている。もうバイト先が潰れてから10年以上も経つのに、今でもこんなに仲良いのは少し変だ。あの時の突然職を失った「被害者」としての仲間意識が今でも固い絆となっているのだろうか。もうしょうがない事だが、カズとヨシミさえ付き合わなければ、俺はこの仲間達を一生の宝として大切に出来たのに...。
「ねぇ、手繋いじゃダメ?」
「ん...聞こえない! 何?」
「今、手繋いじゃダメ?」
ヨシミとカズの会話が聞こえてきた。
「馬鹿っ!みんないるのに嫌だよ!」
カズは俺達の前でヨシミと絶対にイチャイチャしない。そこら辺の礼儀が分かっている男で本当に助かった。
「ヨシミ、聞こえてるぞ!俺なら手繋いで良いよ!」
思ったより飲み過ぎたのか、無意識のうちに自分自身でもビックリな発言をしてしまった。
「ちょうどいいじゃん。長沼と繋げよ!」
カズも酔っ払っているのか...。こんな事を言うタイプじゃないのに。
「何言ってんの!カズの馬鹿!」
ヨシミは顔を真っ赤にして、腕組みをして、頬をプクっと膨らませて、怒ってるぞ!のポーズをした。
「ヨシミ!今日ぐらい良いじゃん!お年玉だと思って俺と手を繋いでくれよ!」
「ちょっと!長沼君キモ〜い!」
ヨシミは完全にギャグだと思って対応している。
そりゃそうか...。これ以上しつこくしても場の空気が悪くなるだけだ。
「じゃあ、良いよ。俺はカズと手を繋ぐから。」
俺は強引にカズの手を取った。
「な、な、長沼!あなたもソッチだったの?」
カズがオカマっぽい口調で応えてくれた。
「カズ〜!」
「長沼〜!」
思いっきりカズと抱き合い、ヨシミもみんなも大笑いしてくれた。...これでいいんだ。
この後、カズとヨシミは神様に何を祈ったのだろうか?
「ヨシミの事を忘れられますように。あっ、でも、もしカズと別れたら俺の事を好きになって、付き合えますように!」とか未練タラタラな俺の願いは、きっと今年も叶わない事だろう。
参拝後にタカシの家に戻るとヨシミから「さっき長沼君のバンドが売れますように!ってお祈りしといたよ。ついでだけどね(笑)」とメールが来た。
俺が望んでいる事はそんな事じゃない!俺はお前とあんな事、こんな事、うぉー!思わせぶりなメール送るんじゃねぇよ!と思ったがとりあえず「ありがとう!」とだけ返した。
“Pug's smile” after the SEX.........とりあえず、サビの歌詞がこんな感じの曲を作るとしよう。
ウソ。
■今日のBGM140■
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