鬱 on the beat

VELTPUNCHのナガヌマによる日記的ななんとか
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「りんご」って10回言って!「いいよ。りんごりんごりんごりんごりんごりんごりんごりんごりんごりんご。」「なんか、楽しくない?」「えっ......うん。」

「あっ、ベルパンも入ってるんだね。」

 

かれこれ30分程度イヤホンをしながらスマホをいじっていた久美が突然大きな声で話し掛けてきた。

 

「何に入ってたの?」

「えっ、何?」

「だから、何に入ってたの?」

「えっ、全然聞こえない!」

 

だったらイヤホンを外せ!自分から話しかけてきたくせに!と、多少ムカついたが、しょうがない。久美は美人だし、一人っ子だし、年下だし、付き合ってまだ1ヶ月だし、まるで「鍋の中の絹ごし豆腐」ぐらい丁寧に扱ってきたら、すっかり人間関係のマウントを取られてしまったのだ。

今さら「些細な事でキレる権利」など俺には与えられていない。

 

俺は目をつぶって大袈裟に「な・に・に?」と口元を動かした。

 

「あ〜。 Apple Musicだよ。昨日から『お試し版』に入ったの。」

 

久美はそう言って、ようやくイヤホンを外してくれた。

久美が言っているのは最近流行りの定額制の音楽聴き放題サービスの事だ。

 

「へぇ、 VELTPUNCHの曲も聴けるって事?」

「そうだよ。ほらっ。」

 

確かに俺のバンドの曲も取り扱いがあるようだ。

俺はミュージシャンでありながらこの手のサービスをまだ試していない。特別に抵抗があるという訳ではないが、なんか、今まで時間と金を掛けて少しずつ集めてきた「お気に入りの音楽達」が指先一つでいつでも聴けちゃうという事に寂しさに似た感情を抱いてしまったのだ。

 

例えるなら、2年間ほど遠距離恋愛を続けてきた彼女が突然マンションの隣の部屋に引っ越してきたような感じだろうか。

…ちょっと違うか。

 

便利なのは分かる。素晴らしいサービスである事は分かる。でも「まだいいかな。」という気持ちで、俺はパンドラの箱を開ける事を躊躇しているのだ。

 

「どう、便利?」

「便利。便利。これでもうCD買わないかもね。」

「一応俺もミュージシャンなんだけど。」

「えっ、だから?」

「だから、CD買わないという一言はキツイのよ。」

「そうなの? だってCD買うほど好きじゃない人にも聴いてもらえたら良いじゃん。」

「それは一理あるけど。でも、こういうのはミュージシャンに分配される金額が少ないだろうから、これだけになったらミュージシャンは食べていけなくなっちゃうと思うよ。」

「長沼君、普通に仕事してるから大丈夫じゃん。」

「いや、だから俺だけの話をしているんじゃなくて ... 。」

「じゃあ、何? 宇多田ヒカルが心配だっていうの?」

「いや、いや、あのレベルは死ぬほど金持ってるだろうから大丈夫だろ。」

「じゃあ、どのレベルがヤバいの? 具体的に言ってよ。」

「言えるかよ!今後あのアーティストは食べていけないね!って断言できる訳ないだろ。」

「じゃあイニシャルでいいから。」

「はぁ!人名じゃなかったらどうするんだよ。『Mターチルドレン』とか『Sピッツ』とか言えって言うの? 『X JAPAN』とか、どうイニシャルにするんだよ。」

「『X J パン』でいいでしょ!」

 

こんなふざけた事を真顔で言ってくる久美の事を時々「本当にヤバい奴」なんじゃないかと思う事があるのだが、先ほど書いたように久美は美人だし、一人っ子だし、年下だし、付き合ってまだ1ヶ月なので、できるだけ肯定的に良い所だけを見ていこうと努めるようにしている。

 

これは偏見だが、人付き合いが上手な人とは、要は「鈍感な人」か「我慢強い人」なんだと思う。「鈍感な人」ではない俺はできるだけ我慢強くなれるように努力するしかないのだ。

 

これは「ミュージシャンの彼氏と付き合っている女性の音楽に対する気持ちを聞いている」のではなく、「今どきの一般リスナーの音楽に対するニーズをマーケティングしている」という風に気持ちを切り替えて俺は話を続けた。

 

「でも、本当に好きなアーティストのCDだったら欲しいでしょ? 歌詞カードとかも大切じゃん。」

「それは『お布施』的な意味で買うやつでしょ。でも、正直言って今はいないかな〜。 BIGBANGも飽きてきたしな〜。」

 

確か、久美がBIGBANGにハマったと騒ぎ出したのは 2 週間前くらいだったはずだ … 。

 

「でもね、やっぱりCDは金出して買った方が良いと思うよ。」

「なんで?」

「それが好きなアーティストの活動を支えてるからだよ。」

「だったら、支えたいほど好きじゃなかったら買わなくても良いって事でしょ?」

 

…若いだけあってさすがに頭の回転が早い。

なんだか凄く上手いけど意地悪な人と卓球をしている気持ちになった。

こっちはラリーがしたくて出来るだけゆっくりと相手コートに球を打ち返しているのに、向こうは隙あらばスマッシュを打ってくる。

 

「いやいや、それだけじゃなくて、せっかく金出して買ったアルバムとかって、初めはあまり好きじゃなかった曲でも何回も聴き返して、だんだんに好きになっていくパターンってあるでしょ?」

「スルメパターンね!」

「そうそう。あれが重要なんだよ。 何曲でも聴き放題だったら、そんな経験って少なくなると思うんだよね。」

「確かに。」

「人間関係もそう。表面的な印象だけで付き合いを始めるんじゃなくて、職場とか学校とかでも一緒にいる時間の中でだんだんと見えてくる相手の良いところとか、情とか、そういうのあるでしょ? いつの間にかどんどん好きになってるパターンのやつ。」

「あるある!」

「でしょ〜。音楽だってそうなんだよ。」

 

ようやく説得が出来たと思った。俺は音楽業界を代表して「古き良き何か」を守りきり、ついでに彼氏である俺の事を大切に扱うようにと刷り込む事にも成功したのだ。

 

久美は再びスマホをいじりはじめた。

どうせ LINE か twitter かパズドラをやっているのだろう。

俺はどうやってここからエロいモードにもっていけるのか、何パターンものシミュレーションを重ねていた。

 

寒いといって体を近づける …いや、だったら服着たら!と言われてしまう。

眠いと言って体を近づける …いや、だったら寝たら!と言われてしまう。

寂しいと言って体を近づける …いや、ウサギかよ!と言われてしまう。

なんか良い匂いするね!と言って体を近づける …いや、そのタイミングで久美がオナラをしてたら、とんでもない変態だと思われてしまう。

 

「あのさ、さっきの話しだけどさ … 。」

 

急に話しかけられて、俺はマンガみたいに「ビクッ!」となった。

 

「何?何?」

「さっきの話。」

「 Apple Musicの?」

「そう。だけど後半のスルメの話。」

「スルメ?」

「アルバムの中で聴き返していくうちに好きになる曲があるって言ったじゃん?」

「うん。」

「でも、なんど聴き返しても好きにならない曲だってあるよね。」

「まあね。」

「あと、好きだったけど飽きちゃう曲だってあるじゃん。」

「そりゃね。」

「さっきの人間関係の話で例えたら、CDアルバムを買う事が普通の結婚だとしたら、Apple Musicは結婚したら相手と同じ名字の人とはいつでも交換OKっていうぐらい便利だと思うの。」

「ごめん。話が飛躍し過ぎてて全然分からない。」

「だから、普通の結婚は相手の良いところも悪いところも受け入れて、長い時間を掛けて愛着とか、情とか湧いて、夫婦の絆が強くなっていくんだろうけど、やっぱり合わなくて離婚する夫婦もいるでしょ。」

「うん。普通の結婚はね。」

「でもApple Music婚だったら、日本中の長沼という名字の人とはいつでも浮気したり、パートナーを交換したりできるの。つまり、愛着とかが湧く前に相手を交換しちゃう事が多くなるけど、嫌いになる前に分かれる事も可能なわけ。」

「そう言われちゃうと、魅力的だね。」

「良いでしょ。Apple Music婚。だって嫌いになる前に取り替えちゃえば良いんだよ。」

「いいね。婚姻届1枚で、浮気し放題。みたいな。」

「かなりゲスなキャッチコピーだね。」

「あっ、でも苗字縛りって厳しく無い?」

「なんで? それぐらいの制約はあるでしょ。Apple Musicだって入ってない曲もけっこうあるみたいだよ。」

「だって、絶対数の多い『佐藤』『鈴木』『山本』辺りがモテモテになるでしょ。交換できる確率が高くなるんだから」

「そっか! 佐藤だったら『健(タケル)』と『浩市』を一晩ずつローテーション化できるんだ!」

 

何かにひらめいた久美はカレンダーアプリを開いて、日付ごとに『健』と『浩市』のどちらかを入力していくという謎のスタメン作りをはじめた。

 

「あの〜。」

「何? 今忙しいの!」

「あの〜。」

「あ〜!黙って!」

「……実際は無いからね。そんな制度。」

 

まあいいか。「土日とも『浩市』だと疲れるかな〜?」とか訳のわから無い事を言って盛り上がっている久美を横目に、俺は俺の作った音楽が無料に近い状態でバラ撒かれている現状をなかなか飲み込めずにいた。

 

せめて、アルバムを無料配信で聴いた女の子とは後日1回だけデートができるというぐらいの著作権を与えてもらえ無いだろうか? JASRACさん…。

 

 

■今日のBGM145■

「THE NEWEST ROCK」VELTPUNCH♪

 

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チケット絶讃発売中!お求めの方は是非お早めに!

 

 

2017年4月1日(土)@下北沢SHELTER

 

【出演】

VELTPUNCH

zArAme

BP.

 

前売り¥3,000

open / 18:00

 

チケット:イープラス

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